アレルギー性鼻炎・花粉症の手術の選択

アレルギー性鼻炎や花粉症に対する手術療法の適応と選択

各術式の適応

「病気の解説」の項で述べましたようにアレルギー性鼻炎の症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりのうち、鼻づまりは下甲介粘膜局所での反応が主な原因であり、くしゃみと鼻水はアレルギーを伝達する後鼻神経を介した反応が主な原因となります。したがってアレルギー性鼻炎の症状を制御するためには下甲介粘膜での反応を抑える手術と、後鼻神経の反応を抑える手術を同時に行うことが効果的であると言えます。

以前より当ホームページではアレルギー性鼻炎に対する手術療法として以下の方法、すなわち

を紹介してきました。このうちAは下甲介粘膜での反応を抑える手術であり、Cは後鼻神経の反応を抑える手術ですが、どちらも日帰りで行える手術であるため多くの場合同時に行っております。したがって、現在当院ではアレルギー性鼻炎に対する手術療法として

の3種類の複合手術を施行しています。いずれの手術も下甲介に対する手術と後鼻神経に対する手術を同時に行うといった共通点があります。一方でこの3種類にはそれぞれメリット。デメリットがあり、患者さんの症状や病態などによって適宜選択しております。ここでは、これらの特徴について説明します。また、鼻づまりの原因として、下甲介のアレルギー反応による腫れだけでなく、鼻の中を左右に隔てる鼻中隔が一方に弯曲している場合も多く、その場合は鼻中隔矯正術をこれらの手術組み合わせて同時に行います。

下甲介粘膜焼灼術 (アルゴンガス凝固術) +鼻内後鼻神経凍結術

下甲介粘膜焼灼術 (アルゴンガス凝固術) +鼻内後鼻神経凍結術この方法の最大の特徴は、短時間(両側で20分ほど)で、痛みや出血も少なく安全に行えることです。 したがってほとんどの場合は局所麻酔で日帰り手術として行います。局所麻酔の時には外来で鼻の中に麻酔用のガーゼを挿入し、手術時には浸潤麻酔(歯医者さんで使う麻酔と同様です)を追加することによってほぼ痛みを感じずに行うことができます。

手術の効果

下甲介粘膜焼灼術 (アルゴンガス凝固術) +鼻内後鼻神経凍結術 手術の効果薬などでは効果が少なかった中等症以上のハウスダストアレルギーに対する術後6ヶ月の手術成績です。症状の消失、著明改善、改善を合わせると、くしゃみ78%、鼻汁78%、鼻閉89%でした。したがって8~9割の方の症状が改善しているといえます。これは従来からある他の焼灼術にまさるとも劣らない成績です。一方、花粉症に対する手術成績はかなり良好であり、最も効果が高いといわれているステロイドの点鼻薬を使い続ける以上の効果が得られています。(スギ花粉症に対する下甲介焼灼術 (アルゴンガス凝固術) + 後鼻神経凍結術の効果を参照して下さい。)

粘膜下下甲介骨切除術+粘膜下後鼻神経凍結術

粘膜下下甲介骨切除術+粘膜下後鼻神経凍結術アレルギー反応が強く下甲介粘膜の肥大が原因で鼻づまりが強いときや後鼻神経の過敏反応によりアレルギー症状が高度な時には、粘膜下下甲介骨切除術を行います。(手術療法-2:内視鏡下鼻内整復術Bを参照して下さい)この方法は粘膜の裏で骨をくり抜くよう除去することにより粘膜表面を温存することができます。骨を除去することで下甲介の体積が小さくなり、粘膜の裏に瘢痕組織が形成されアレルギー反応をブロックする効果もあります。切除した骨は再生しませんので単純に粘膜を切除するのと異なり、鼻づまりに対する効果も長期間持続します。また、後鼻神経に対してはその根本で神経を直接凍結変性します。(粘膜下後鼻神経凍結術)

手術の効果

粘膜下下甲介骨切除術+粘膜下後鼻神経凍結術 手術の効果上記と同様に中等症以上のハウスダストアレルギーに対する術後6ヶ月の手術成績です。症状の消失と著明改善のみを手術が有効であったとすると、くしゃみ75%、鼻汁81%、鼻閉94%でした。過去に報告されている他の手術と比較しても十分に高い効果と考えられます。

粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切除術

粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切除術アレルギー反応、特に後鼻神経を 介するくしゃみや鼻水がきわめて強い方には後鼻神経切断術を行います。(手術療法-2:粘膜下下甲介骨・後鼻神経切除術を参照して下さい)この方法は粘膜下下甲介骨切除術は上記と同様ですが、後鼻神経に対しては完全に凝固切断を行います。したがって、1や2の方法と比較してさらに確実で長期的な効果が期待できます。

手術の効果

粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切除術 手術の効果中等症以上のハウスダストアレルギーに対する術後6ヶ月の手術成績で検討しました。症状の消失と著明改善のみを手術が有効であったとすると、くしゃみで90%、鼻水で75%、鼻づまりで100%でした。手術対象とした方の多くはレーザー手術などが無効であった重症の方ですので手術効果としては十分に高いものだと考えられます。また、3年以上経過した方に対する長期成績でも88%が「現在も効果が持続している」と答えられおり、長期の合併症でも「少し鼻が乾く」と答えられた方が1名のみでした。

アレルギー性鼻炎や花粉症に対する手術療法の適応と選択

いままで述べましたような各術式の特徴をふまえた上で当センターでの基本的な手術方針を説明します。
まず、手術を施行する年齢としては基本的に8~9歳以上としています。その理由は手術後の処置への協力という問題です。術後約1か月は鼻の中の掃除が必要となります。掃除といっても特別なものではなく、鼻のスプレー、吸引ですが術後ですので多少は痛みを伴います。したがって通常の鼻処置が嫌がってできないような年齢では術後処置が困難となります。この境界が年齢的には8~9歳位となります。ただし、これには個人差がありますので通常の鼻処置が問題なくできるようであれば手術も可能です。

次に8歳以上で手術可能となりますが、どのような手術が適応となるのでしょうか。近年アレルギー性鼻炎の低年齢化が問題となっています。幼少から極めて強いアレルギー症状を持つ子供さんが増えています。一年中症状があり、その症状をコントロールするためいつも薬を服用していなければならない場合、粘膜下下鼻甲介骨切除術+後鼻神経切断手術をお勧めしています。小学校低学年で当院において手術治療を受ける子供さんが増加しています。

一般的な手術選択の目安は、年齢に関係なく、季節性のある中等度までの例(春先に限定しているなど)では、下甲介粘膜焼灼術(レーザー手術・アルゴン凝固術)+後鼻神経凍結手術を、一年中症状があるが高度な症状でない場合は粘膜下下鼻甲介骨切除術+後鼻神経凍結手術を、高度症状、鼻の粘膜所見なお場合は、粘膜下下鼻甲介骨切除術+後鼻神経切断手術を行います。 鼻の中の形態異常である鼻中隔弯曲症が、鼻づまりに関与している場合も多くみられますが、顔の発育に対する悪い影響から、その手術適応は19歳以降になります。

以上が基本的な手術選択ですが、患者さんの希望によってはまず外来手術を行い、効果が不十分であれば入院手術を行うことや、入院手術の後やや症状が再発した時には外来手術でコントロールすることも考えられます。

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