慢性中耳炎とその治療
慢性中耳炎とは
反復性あるいは持続性の耳漏(耳からの分泌物)と難聴を伴う中耳を中心とした粘膜、骨の慢性炎症と定義されています。大きく2つの種類に分類され、慢性単純性中耳炎は鼓膜の中央部の鼓膜緊張部に穿孔を認め、中耳腔の粘膜の炎症であるのに対して、鼓膜の上方(鼓膜弛緩部)や辺縁(緊張部辺縁)に穿孔のある真珠腫性中耳炎では、中耳腔の周りの骨の病変を伴い、大きな合併症を起こす危険性があります。
慢性単純性中耳炎
慢性単純性中耳炎は、鼓膜は中央の大部分を占める緊張部の穿孔を伴う中耳炎であり、穿孔を通して細菌が入ることより耳漏(耳からの膿などが流れ出すこと)を繰り返したり、また鼓膜の穴のために音の振動が十分に伝わらなくなるために難聴を来たします。
真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎では、鼓膜弛緩部または緊張部より中耳腔に真珠腫上皮が侵入し、中耳腔内部、あるいは中耳腔の周りの骨が吸収されていきます。上記の慢性単純性中耳炎と比較して、骨の病変を伴うことがひとつの特徴です。中耳腔の骨として、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨などの耳小骨がありますが、耳小骨が吸収されることにより、伝音性難聴が生じます。また、中耳から内耳へと骨の吸収が進むことより、めまい、耳鳴り、顔面神経麻痺など内耳に存在する神経の障害が生じる可能性があります。
慢性中耳炎の症状
1耳漏
風邪などの上気道感染に伴って、耳からの分泌物(耳漏)を繰り返すことが多い。
2難聴
慢性単純性中耳炎の場合、鼓膜の穿孔による伝音性難聴であることが多いが、経過とともに内耳の聞こえ神経が障害され、感音性難聴を伴うこともある。
3めまい・耳鳴り
慢性中耳炎に伴う内耳機能障害により、耳鳴り、めまいなどが起こりうる。特に真珠腫性中耳炎では起こりやすい。
慢性中耳炎の検査
- 1問診
- いつから難聴があるのか、いつから耳漏(耳からの排出物)があるのか、最後に耳漏を認めたのはいつか、耳鳴りがあるか、めまいを起こしたことがあるか、などが重要です。
- 3鼓膜所見
- 顕微鏡、あるいは電子スコープなどにより鼓膜所見を確認します。当センターでは鼓膜所見をお見せすることにより、十分な理解のもと、治療を行っています。
- 4聴力検査
- 1) 純音聴力検査
通常の聞こえの検査です。
難聴の有無、程度を調べます。 - 2) パッチテスト
人工の膜で鼓膜穿孔を閉鎖し、聴力の改善の有無を検査します。
仮の閉鎖により聴力が改善すれば、中耳腔のツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の耳小骨のつながりは正常であり、手術を行う場合、鼓膜閉鎖術の適応となります。聴力が改善しなければ、耳小骨のつながりに問題があることが考えられ、2日間の入院である鼓室形成術が必要となります。 - 4レントゲン検査(CT検査)
- 中耳腔における炎症の広がり、中耳腔に存在する耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨) の形態、鼓膜閉鎖後に中耳腔の換気に関与する耳管の形態を確認します。
当サージセンターでは必要時にすぐに耳CT検査が可能です。
慢性中耳炎の治療方針
慢性中耳炎の治療の目的は次の2つです
1. 耳漏(膿などの分泌液が耳から流れ出すこと)のない乾いた状態(乾燥耳)
2. 聴力の改善
慢性中耳炎の場合、多くは耳漏がきっかけで耳鼻科を受診されます。
その場合、局所処置や点耳薬などにより、炎症をコントロールすることにより耳漏を止めることは可能です。(保存的治療) しかしながら、鼓膜に穿孔がある限り、風邪などがきっかけで耳漏を繰り返します。
また、鼓膜に穿孔がある限り、聴力は改善しません。慢性中耳炎の治療の流れの中で、鼓膜を閉鎖する、あるいは真珠腫性中耳炎の炎症の場を取り除くなどの手術が重要となります。(手術治療)
保存的治療
細菌感染にて炎症が起こっている場合、まず感染のコントロールが必要です。局所処置、点耳薬の使用により達成できます。 また、長期に感染を繰り返している場合などは、緑膿菌やメシシリン耐性黄色ぶどう球菌などの多くの抗生物質に抵抗のある細菌が原因であることがあり、細菌検査などが必要になります。
手術治療
中耳炎の状態により、手術法が異なります。
1.慢性単純性中耳炎でパッチテストにより聴力の改善が得られる場合
中耳腔の耳小骨は正常と考えられ、鼓膜形成術や接着法にて鼓膜を閉鎖します。
接着法の場合、朝入院、夕方退院という日帰り手術で行います。
2.慢性単純性中耳炎でパッチテストにて聴力の改善がない場合や真珠腫性中耳炎などでは、耳小骨が十分に音を伝えていない可能性があり、鼓膜閉鎖に加えて耳小骨の再建が必要です。また真珠腫性中耳炎では、真珠腫そのものの摘出や骨吸収が起こっている耳小骨の再建など、複雑な手技が多くの場合必要となります。1泊2日の入院期間が必要です。